こんにちは、キャリアコンサルタントの渡邊です。
先日、相談者との面談中に「無期転換ルール」の話題になりました。無期転換すると正社員と同様の待遇になると思っておられたようです。
今回は、少し分かりづらい「無期転換ルール」について考えてみます。
無期転換ルール
「無期転換ルール」は、平成25年施行の改正労働契約法(18条1項)の規定で設けられ、平成30年4月に施行しました。5年を超えて働き続けた契約社員や派遣社員、アルバイト・パートの方たちは、希望すれば無期労働契約に転換できるというものです。
労働者から事業者に対して「無期契約を希望します」と意思表示がされると、事業者は労働者の申込みを受け入れた(承諾した)ものとみなされ、労働者を無期契約に転換させなければなりません。
出展:厚生労働省 有期契約者の無期転換リーフレット
「無期雇用」=「正社員」ではない
無期雇用というと、一見、正社員になることと思われがちですが、無期契約への転換は必ずしも「正社員になる」ことではありません。あくまでも有期契約が無期契約になるだけです。ただ、定年制を設ける企業が多いため、「定年までは、毎年契約更新することなく雇用が継続する契約社員」と言い換えることができます。これは、事業者による雇止めの不安を解消し、安心して働き続けることができるという労働者保護が背景にあります。ただし、契約期間以外はそれまでの働き方が大きく変わることはありません。
事業者の視点
この制度は、事業者に拒否権がありません。無期契約に転換させると定年までの雇用義務が発生します。さらに、正社員との待遇格差が生じたまま働き続けることに対する不満やモチベーション低下が危惧されます。しかしながら、拒否権がない以上受け入れなければなりません。事業の発展につながるように視点を変える必要があるのです。
具体的には、会社の内情や実務に詳しい労働者を継続的に雇用することによって、生産性が向上し、技術の伝承を図りやすくなります。また、新たに雇用し教育する必要がないので、採用コストもかかりません。拒否権がないのですから、ポジティブマインドが重要です。
更なる労働者保護に向けた動き
改正から10年近く経過したにも関わらず、このルールを有期契約者の8割が知らないとする調査もあります。労働者保護のためには、雇用保障だけでは足らず、労働条件の改善を求める声も高まっています。
そこで、2021年4月に、政府は、無期転換ルールの見直しに向けた有識者会議を立ち上げました。同検討会ではこのほか、勤務地限定や職務限定などの「多様な正社員」の雇用ルールについても議論することになっています。転勤がない、残業時間に制限を設けるなど、働き方に制約がある方向けの仕組みです。
既に、ユニクロやスターバックスが有期契約労働者を正社員化(勤務地限定)して話題になりました。人手不足を背景に、飲食業や小売業を中心に正社員化を検討する会社が増えています。
まとめ
昔も、今も、そしてこれからも、働き手の確保は企業の大きな課題の一つです。契約社員を数多く抱えている中小企業は、このルールの現在と未来を知っておけば、有用な人材をつなぎとめ、適材適所で活き活きと働いてもらうことで、事業の発展に大きな力となってくれるでしょう。次々に打ち出される新しいルールに着目し、本旨を見極めて、自社の発展に役立てていく視点を持ちたいですね。
キャリアコンサルタント 渡邊 崇宏