HACCPとは、食品等事業者自らが食品を製造するための原材料の搬入から製造、梱包、出荷までの全工程を細分化し、各々の工程で生じうる食品汚染の危険因子を分析したうえで、その危険を回避するための衛生管理を行っていくというものである。
1970年代にアメリカで考案されたHACCPは、現在多くの国で取り入れられており、日本でも、改正食品衛生法でHACCPの導入が義務付けられ、2020年6月に施行した。1年間の経過措置期間をおいて、2021年6月に完全施行を迎えた。
対象は、原則的に全ての食品等事業者(製造・調理・加工・販売等)である。営利目的でなくても、学校や病院などの食事提供施設を保有している場合も含まれる。仮に、HACCPに沿った衛生管理を行わない場合には営業許可証の更新ができないとか、罰金や罰則などの可能性がある。
そもそも、なぜHACCPの導入が必要となったのだろうか。食品衛生管理の国際標準である HACCP が先進国を中心に義務化されていることは理由の一つであり、国際的な競争力強化を目的にしているといって過言はないであろう。とはいえ、シンプルに考えると、食中毒や異物混入のリスクを減少させることが私たちの生活の身近にある理由と言える。
この手の施策は、しばしば、『認証』取得による事業活動へのメリットを伴う。既に業界団体や民間審査機関の認証も存在し、HACCP認証の信頼性が確立され始めている。しかしながら、今回求められているのは、あくまでも『HACCPに沿った衛生管理の実施』に過ぎない。さらに言えば、最も大事なのはHACCPという名前ではなく、食中毒や異物混入が発生しなかったという結果なのである。果たして本当に実効性があるのか、ここが最も肝要である。
その点、私が自らの店舗でHACCPに沿った衛生管理計画を策定した感想であるが、このシステムが何をどのように管理するかを事業者自らが考えることを重要視しているため、具体的なチェック方法は自由記述が多い。作業工程を細かくイメージしつつ検討する必要があることから、店舗の実態に沿った計画の策定を可能にする仕組みだと感じた。
ひとたび食中毒などの事故を引き起こすと、社会的ダメージは相当なものとなり信頼回復には多くの困難が予想される。でありながらも、消費者の安心安全な食品へのニーズは高まり続けており、食品等事業者はそのニーズに高いレベルで応えていかなればならない。その勢いで、戦略的にHACCPを活用することで、事業優位性を高める一つの機会と捉えることもできるのではないだろうか。
キャリアコンサルタント:渡邊 崇宏